理系の子 高校生科学オリンピックの青春
タグ: 科学技術
- 登録日
- 2015/2/11 2:30
- カテゴリ
- 一般
- ISBN
- 416790215X
- 感想
アメリカのインテル国際学生科学フェア(2009年開催)の本戦出者数名への取材を元にした本です。地元のサイエンスフェアの優秀者が集まる、科学の甲子園といったところでしょうか。
サイエンスフェア、というのがどういうものなのか、僕は全く聞いたこともなかったのですが、本書を読んでみて驚くことがたくさんありました。
まず本戦と言っても1500人以上が集まるそうで、その層の厚さに驚いてしまいます。
そして、優秀な学生には賞金が出されます。日本では賞金なんて聞いたこと無いんですが、それもその総額400万ドル(5億円)というから驚きです。あちこちのサイエンスフェアの常連になっている学生の中には高校の間に数千万円相当稼ぐ子もいるとか。さらに、賞金だけでなく奨学金も数百万、一千万円単位でもらえる可能性もあります。本書で取り上げられている学生の中には非常に貧しい子もいて、この奨学金で初めて大学に行ける、というケースも出ていました。
参加者は中高生なんですが、少なくとも本書に取り上げられている研究は大学の学部レベルを超えているものが多いように見受けられます。
- 2.5MeV中性子流量における臨界値以下の中性子倍増
- 空き缶と廃棄ラジエータで作る太陽光ヒーター
- ハンセン病研究とその正しい知識のPR
- 火星地表付近の水の在処の推定
- 馬の利き足と性格の相関およびホースセラピーの可能性
- カーボン電気吸着によるペルフルオロオクタン酸の除去
- 加速度センサを使い空中に書いたアルファベットを認識するグローブ
- 蜂群崩壊症候群とイミダクロプリドの関係
- 自閉症児に対する音楽を用いた教育の可能性
- カーボンナノチューブの溶剤としてのN-メチルピロリドン
タイトルはほとんど載っていませんので、僕が付けたものです。本書の焦点は、研究そのものではなく、研究を行った子どもたち自身に当てられています。ですので、研究内容については、簡単に触れられる程度にとどまります。どんな家庭で育ってきたのか、どうしてその研究に興味をもったのか、どうやって研究を進めてきたのか、といった点が面白く読めるようにまとめられています。
太陽光ヒーターの子はナヴァホ族の出で、満足な暖房設備もなく一家が凍えて過ごしていたことから作ったものですし、ハンセン病研究の女の子は自身がこの病気に罹っていました。火星の研究をした子は刑務所に入っていて、その中で研究を行い、サイエンスフェア会場には手錠付きで到着しています。蜂群崩壊症候群を研究した女の子は2歳の頃からフォードのモデルの仕事を始め、4歳の頃からは舞台で女優として活動してきました。そしてカーボンナノチューブの子は両親がハーヴァード出身、JPモルガン勤務のエリート家庭で本人も6歳にしてバッハの「トッカータとフーガ」を聞いただけで弾いてしまうような天才ですが、9.11のショックで両親は自給自足みたいなど田舎に引きこもってしまいます。
いささか、美談的なものを強調しすぎるきらいはあるかもしれませんが、自分ももっと色々やってみたいなと思えてくるのと、いろいろな点で羨ましいなと感じます。単純に賞金や奨学金がばんばん出される、というのも羨ましいですが、なによりこうした活動がごく身近なところにあるというのがいいなと思います。
また、登場する子どもたちの多くは周囲の大人の力(実験のための設備だったり、進むべき方向だったり)を借りているのですが、それは両親や学校の理科の教師だけでなく、引退した研究者だったり、大学の研究室、そしてスポンサーになる企業(!)だったりして、これもまたいいなあと思います(まあそういう事例だから上位に入って本書に収録された、ということなんでしょうが)。
なお、日本語版には、2011年の日本からの参加者の一人、田中里桜さんの有孔虫に関する研究も紹介されています。この研究は地球科学部門3位、米国地質研究所賞の1位を獲得しています。
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