最新更新日:

2001/04/18


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氷川TRPG研究室

Heirs to Merlin

初   出:2000/02/20
最新更新日:2000/02/20

Product Number: AG262
ISBN: 1-887801-79-0
定価: $22.95
デザイナ: David Chart

Cover Illust. i-OGM に注文しておいた Ars Magica のサプリメント,Heirs to Merlin が届きましたので,例によって簡単なご紹介を。

 Heirs to Merlin は,Ars Magica(4th)の12番目のサプリメントで,一般に Tribunal Book と呼ばれるタイプのサプリメントです。Tribunal(管区)というのはマギたちが制定したコヴナントの地理的な区分のことで,コヴナント同士の会議なんかがこの Tribunal 単位に行われたりします。
  Tribunal Book というのは,この「管区」の一つを取り上げ解説したサプリメントをさします。これまでに,Rome, Iberia, Scotland, Novgorod 管区についてのサプリメントが出ています。
  今回の Heirs to Merlin は,タイトルからわかる方もみえるかもしれませんが,Stonehenge 管区を扱ったサプリメントです。一般的な地理区分で言えば,イングランドとウェールズが含まれることになります。

章構成

 章立ては以下のとおり。

  1. I. Introduction(イントロダクション)
  2. II. History(歴史)
  3. III. The Peasant(農民)
  4. IV. The Town(町)
  5. V. Travel, Trade, and Industory(旅,取引,産業)
  6. VI. The Church(教会)
  7. VII. The Nobility(貴族)
  8. VIII.Law and Government(法と統治)
  9. IX. Wales(ウェールズ)
  10. X. The Order of Hermes(ヘルメスの掟団)
  11. XI. Politics(政情)
  12. XII. Myths and Legends(神話と伝説)

Glossary

Bibliography

Index

 まあだいたい The Dragon and the Bear と同じ構成と言っていいでしょう。

各章の紹介

 第3章「農民」,第4章「町」では,1220年前後のイングランドの農民の暮らし,町の住人などについて概観を述べています。当時農民が人口の何%を占めたか,都市の中では,職人,商人,サービス業の構成比はどれくらいになるか,といった事柄や,農村における職人,都市の憲章といった点について解説されており,サガの中で描写する必要が出てきた時に大きな助けになるかと思います。
  また,第4章のほうでは,代表的なイングランドの都市について,都市の地図とともに簡単な紹介がなされています。具体的には,以下の都市。

London(*) Bristol Cambridge(*)
Canterbury(*) Chester Durham(*)
Exter Lincoln Oxford
Winchester(*) York(*)  

(*)...地図あり

 解説の量は,ロンドンは別として他は半ページからせいぜい1ページとあまり充実しているとは言いがたく,「ちょっとPCたちが立ち寄った」程度であればともかく,PCがその街に住んでいるようなばあいには十分な解説がされている,とは言い難いものがあります。まあもっとも,その用に足る解説をつけようとすれば,1つの都市に1冊のサプリメントが必要,という事態になってしまいそうなので,仕方ないでしょうか。

 続く第5章,「旅・取引・産業」は,面白そうなテーマですが,このサプリメントでは4ページを割いてさわりを述べるに留まっています。

 第6章は教会について。Ars Magica が中世ヨーロッパを舞台にしている以上,教会勢力というのは非常に重要な存在なのですが,そのわりに従来のサプリメントでは解説が少ないというのが不満("Pax Dei" は聖職者個人の能力の紹介や天界領がメインでしたし)でしたが,このサプリメントでは結構なページ数が割かれているので,読むのが楽しみです。特に「教会組織」というセクションに興味があります。

  第7章「貴族」。これも,第3章,第4章と同じような感じで,貴族の生活についての概説が述べられています。まあこれについては,次回のサプリメント,"Ordo Nobilis" のほうが詳しく解説しているでしょうから,そっちを読んだほうがいいのかもしれません。

 第8章は「法と統治」で,これも多くのRPGプレイヤにとって苦手な部分なんじゃないかと思います。当時の法について解説した一般書ってあまりありませんからね。ここでは,慣習法,法廷,犯罪,森林法,宮廷,地方統治,といったテーマについて解説されています。
  まあそこそこの解説量にはなっていますが,これも次のサプリメントでもっと詳しく解説されているという可能性もありますね。

 第9章はウェールズ地方についてです。ウェールズもストーンヘンジ管区に分類されるのですが,このサプリメントではやはりイングランドを中心に解説されています。それで,ウェールズについては,今まで章に分けて解説されてきたことを,この1章に凝縮した形になっています。ウェールズにおける日常の暮らし,法と統治,教会といったことが解説されています。フラクタルっぽい。

 第10章は,ヘルメスの掟団についてですが,まあこの管区におけるコヴナントの紹介がメインになります。

 第11章は「政情」で,今この管区が政治的にどのような状態にあるかを解説した章で,世俗の政情とコヴナント間の政情の二つに分けて記述されています。
  マスタにとってはサガのネタになることがたくさん載っていますし,意欲的なプレイヤであれば,ここにかかれているような争いを上手く利用してやろう,と考えるかもしれません。

 第12章は,これまたサガのネタになりそうな怪しい土地や伝承について解説されています。ここはマスタ向けの章かな。

サプリメント全般

  各章の紹介に付いては以上で終わって,このサプリメント全体のことについて3点お話しましょう。

 このサプリメントの一つの特徴は,些細なことではありますが,物の値段がそこそこかかれている,という点です。町の住人の年収はいくらくらいなのか,家を1件建てるにはいくら位かかるか,貴族の買いそうなものの値段表,村の物価表,町の物価表などが付属しています。今まで4版の基本ルール,サプリメント群には値段の情報が欠落していましたから,これは新しい動きかもしれません。

 もう一つは,このサプリメントには,ゲーム上の数値データが一切載っていない,という点です。これについては断り書きがあり,理由が述べられています。
  それによれば,

  • マスタだけでなくプレイヤにも読んでもらいたい(というか買ってもらいたい)から。
  • すべてのNPCのデータを載せるだけのスペースはないし,かといってどのNPCが各々のサガで使われるかというのはわからないから。
  • マギのデータを載せたとして,PCがそのマギに出会ったときに同じ能力でいるとは限らないから。
  • このサプリメントの目的は,「買ってすぐ使える(Plug and Play)」設定を提供することではないから。

だそうです。まあ立派な心がけですし,テンプレートと追加アイテムとリプレイとシナリオアイディアを載せてサプリメントとして売られるよりは遥かに良いんですが,個人的には有名NPCがどれくらいの能力を持っているものなのかとか,自作する時の参考として2,3のコヴナントのデータと,各コヴナントが1220年時点でどの季節にあるのかくらいは載せて欲しかった。
  正直言って,第10章の情報量では全然足りない。

  3つ目。全体的に言って,このサプリメントでは当時の社会の基礎的な事柄についての解説が多く,これは特にマスタにとって非常に役に立ちます。
  このサプリメントを参考にすれば,町や村の描写について自信を持ってプレイヤに挑むことができるようになるでしょう(中世マニアを相手にする場合は苦しいですが)。 ただ,その分「イングランドの特徴的な部分がどこにあったのか」について割かれているページは少なくなってしまっています。
  ですから,本当は,"Guide to Mythic Life" とかいうサプリメントを出してそこで当時の生活の基本的な解説を行い,Tribu]nal Book では各地方の特色について解説する,といったサプリメント構成をとると良かったのかもしれません。