はじめに

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TRPG
同人
シナリオ
2011/12/12
カテゴリ
シナリオ作成

シナリオを作りたい!、シナリオを作んなきゃいけない!

とお困りの皆様、こんにちは。本書は、テーブルトークロールプレイングゲーム(TRPG)のシナリオの作り方、その中でもダンジョンシナリオの作り方について解説した本です。

内容は、特定の TRPG システムに依存したものではなく、戦闘を中心とした TRPG であれば汎用的に適用することができます。主にファンタジー世界を舞台にした TRPG を想定していますが、中核となる考え方は現代物やサイバーパンクなどでも応用できるようになっています。

ダンジョンシナリオは、TRPG のシナリオの中でもシナリオ作成に慣れていないゲームマスターに向いているシナリオと言えます。最初期の TRPG のシナリオが、もっぱらダンジョンを探索するシナリオだったことからもわかりますし、実際、とてもわかりやすい要素からなり、セッション中に問題が発生しにくく、容易に面白くすることができるといった特徴があります。

一方で、TRPG が誕生してから 30 年以上が経過した今でもダンジョンシナリオは廃れておらず、高レベルのキャラクタを対象としたダンジョンシナリオも存在します。決して経験の浅いゲームマスター向けのシナリオだけではない、とても奥の深いものだということが窺い知れます。

本書では、TRPG のシナリオを作ったことがない人でも作れるよう、とてもシンプルで、ダンジョンシナリオの中核要素のみを備えたシナリオを作るところから始めます。そこからステップアップし、より高度なダンジョンシナリオが作れるよう徐々に要素を増やしていきます。

 

本書は、以下のような三部構成になっています。

第一部: ダンジョンシナリオの基礎を身につける

第二部: ダンジョンシナリオを面白くするための方法論を身につける

第三部: ダンジョンシナリオのバリエーションを増やす

 

想定している読者

• ゲームマスターをやりたいという意欲のある方

• TRPG を遊んだことがあり、TRPG やそのセッション、シナリオについて基本的な概念を理解している方

• ゲームマスターの経験はなくても構いません

 

TRPG について聞いたことがあるだけ、あるいはリプレイを読んだだけですと、ちょっと難しい部分があるかもしれません。もっとも、筆者を始め TRPG が広まり始めた頃のマスターはそんな状況で稚拙ながらもシナリオを自作し楽しく遊んできましたので、根気よくルールブックを読む力と、気の知れた寛容なプレイヤたちが相手であれば、うまくいくでしょう。

 

本書があまり対象としていない読者

• TRPG ってなに?という方

• シナリオ作成に熟達し高度なシナリオの作り方を求めている方

• 特定システムに特化したシナリオの作り方を求めている方

• ドラマチックなストーリー、魅力的な NPC、想像力を刺激する描写の仕方などを学びたいと思っている方

• ダンジョンシナリオ以外のシナリオの作り方を知りたい方

 

本書では、「セッション」「パーティ」など、TRPG 特有の用語を特に断りなく使っていますので、TRPG を全く知らない方が読みこなすにはちょっと難しいと思います。本書を読む前に、機会があれば一度遊んでみてください。TRPG を知ってる友人がいなければ、代わりに「リプレイ」と呼ばれる本をいくつか読んでみてください。

本書は、ゲームマスター初心者を主な対象としていますので、高度な技術については解説していません。

またダンジョンシナリオ以外の、シティアドベンチャ(町を舞台にしたシナリオ)やウィルダネスアドベンチャ(屋外を舞台としたシナリオ)を作りたい場合は、拙著『TRPG シナリオ作成の道具箱』をお勧めいたします。

 

2章 ダンジョンシナリオ

みなさんの中には「今すぐシナリオを作りたいんだ」という方もいらっしゃるかも知れませんが、まずはダンジョンシナリオってどんな特徴があるのか、なんでダンジョンシナリオを勧めるのか、といったところから始めたいと思います。どうしてもすぐ作らなきゃいけない、という方は本章を飛ばして次章からお読みください。

 

ダンジョンとは?

「ダンジョン」という言葉は、もともとヨーロッパの城の中核部分を意味する単語からきています。ウィキペディアでは、次のように説明されています。

 

ダンジョンは、君主を意味するラテン語の"dominus"に由来する古フランス語である。中世においては、城の最重要部である天守(Keep)を意味した。(中略)また、ダンジョンは典型的な城の作りとして城の真下に作られる、地下納骨堂や牢屋をも意味するようになった。

 

また多くのゲームでは、怪物のうろつく地下迷宮や洞窟などを指してダンジョンと呼んでいるかと思います。

本書では、「ダンジョン」を広い意味でとらえ、危険な「モンスター」のいる閉鎖的な空間を指して呼ぶことにします。

洞窟、地下迷宮、城の地下牢などを始め、館、砦、遺跡、鉱山、ビル、一般の家屋なども「ダンジョン」になりえます。

また「モンスター」についても同様です。凶暴な動物、怪物はもちろん、邪悪な魔術師も「モンスター」と呼びます。さらには、キャラクタたちに害をなすのであれば警備員なども「モンスター」として扱います。

 

おすすめはダンジョンシナリオ

「ダンジョンシナリオ」は、TRPG のシナリオの位置タイプです。パーティは危険な「ダンジョン」を舞台に戦い、生き残り、財宝や栄光を掴んで帰還する過程を遊ぶタイプのシナリオです。TRPG のシナリオには他にも、広大な屋外を旅するウィルダネスアドベンチャや、街を舞台にするシティアドベンチャなどがあり、パーティがやることも戦闘が主題ではなく、探索だったり、陰謀劇だったり、謎解きだったりと様々です。

ではなぜ、そうしたシナリオタイプの中からダンジョンシナリオを勧めるのでしょうか? それはもう、ダンジョンシナリオが簡単だからです。シナリオを作るのも、それをマスタリングするのも、どちらも簡単なのです。

「今度、はじめてゲームマスターとしてシナリオを作ることになっちゃった」というのであれば、ダンジョンシナリオを第一候補としてお勧めします。

ひょっとすると、リプレイなどを読んで、あるいは先輩ゲームマスターが繰り広げるキャンペーンシナリオなどをふだん遊んでいて、シナリオを作るには何かこう伏線が利いた素晴らしい物語を考えなきゃいけないんじゃないか、となんとなく考えている方もいるかも知れませんが、そんなことはありません。ストーリーのかけらもないようなダンジョンシナリオでも、そうしたシナリオに負けないくらい面白いセッションは可能です。また時にはそうしたシナリオから意外なほど波乱に富んだ面白い物語が生まれることもあるのです。

とはいえ、最初から狙ってそんなに面白いシナリオを作るのはさすがに難しいでしょう。それでもダンジョンシナリオであれば、最低限セッションの形をなして最後まで楽しく遊べるのはシステムによって約束されています。

一方、謎解きや物語を主においたシナリオではその保証はありません。謎を構成していた要素に見落としがあって答えがたくさん出来てしまう、PC が判定に失敗して先に進めなくなる、プレイヤが解答に気づかずにいつまでも同じ場所をウロウロしている、など、初心者ゲームマスターに限らず起こりうることで、しかもそうなるとセッションはグダグダ、先に進めずストレスが貯まり、ついには時間切れでなんだかよく分からないうちにセッション終了という、泣きたくなるような結果に終わります。

ダンジョンシナリオならそんなことは滅多にありません。仮にうまく行かなかったとしても、「ちょっと物足りなかったけどまあ良かったんじゃない」より悪い評価を得るのは難しいくらいです。

 

なぜダンジョンシナリオは簡単か

ダンジョンシナリオが簡単なのには、理由があります。以下、その理由についてご説明しましょう。

 

ダンジョンの三要素

ダンジョンシナリオの作成が簡単なのは、まず第一にダンジョンシナリオの構成要素がとても明快な次の3つからなるからです。

•地図

•モンスター

•宝物

 

三種類からなるだけでなく、それぞれを簡単にシナリオに組み込むことができます。地図は、ランダムで生成したものでも構いませんし、モンスターや宝物はルールブックに載っている中から選ぶだけです。出来の善し悪しはありますが、作るだけなら才能も、ひらめきも、経験も不要です。小規模なものなら、今から 1 時間もあれば作れてしまうでしょう。

もちろんどの要素も、凝ったものにしようと思えば相当深い作りこみが可能ですが、はじめのうちはそのようなものを目指す必要はありません。

 

要素の独立性

一方でダンジョンシナリオをマスタリングするのが簡単な理由は、これらの 3 つの要素の独立性が高いからです。

これは、少し解説が必要でしょう。

要素の独立性が高いとは、要素 A の状態が要素 B に影響を与えないということです。具体例を出すと、ある部屋(要素 A)のモンスターと遭遇したか、そのモンスターを倒したかは、別の部屋(要素 B)におけるパーティの活動に影響しないということです。

これがシティアドベンチャだと、情報(要素 A)を手に入れているかどうか、ある人物と会って話をしたかどうか(要素 A')、あるアイテムを手に入れているかどうか(要素 Aʼʼ)が、別のシーンの展開(要素 B)に影響するということが多々あります。

このように独立性が低いと、シナリオには穴ができやすくなります。例えば、先に要素 B を回ってしまいイベントが空振りに終わるとか、パーティが要素 A をクリアするのに失敗して先に進めなくなってしまう、などです。

一方、ダンジョンシナリオのように独立性が高いと、どの順番で各要素に遭遇しても問題ありませんし、一つくらいクリアできなくても先に進むことができます。

もちろん、ダンジョンシナリオであっても作り方によっては独立性を低くすることもあります。そうしたダンジョンシナリオの作り方については、第二部の「モンスターの反応」を御覧ください。

 

第 3 章 システムを選ぶ

シナリオを作るにあたって、まずどの TRPG システムで遊ぶかを決めなければなりません。必ず先に、システムを選びます。モンスターを選んでバランスを取るにも、戦術を組み込むのにも、システムが決まっていないとできないからです。

幸いなことに、2011 年現在、ちょっとしたお小遣いで手軽に買える TRPG システムが出ています。ここではそのうち幾つかをご紹介します。ただし、筆者は比較的古くてマニアックな TRPG をふだん好んで遊ぶため、入門者向けの TRPG については詳しくありません。そのため、通り一遍のカタログデータ的なご紹介になってしまいます。

また、ゲームマスターを務めるのであればルールについてある程度詳しい方が望ましいですし、セッション中ルールの確認に気を取られては肝心のシナリオの運用が疎かになってしまいますので、プレイヤとして遊びなれたシステムがあれば、それでシナリオを作ることをお勧めします。

特に遊びなれたシステムがなかったり、初めての TRPG でゲームマスターをやらなきゃいけないのであれば、以下を参考にしてください。

 

パスファインダー

http://www29.atwiki.jp/prdj/

http://www.pipu.net/download

世界初の TRPG『ダンジョンズアンドドラゴンズ(D&D)』の系譜に連なる TRPG です。 D&D3.5 版のルールをベースにしています。

海外の TRPG ですが、なんと有志の手で日本語訳されたものが PDF 形式で無償配布されていますので、一番手軽に入手できるシステムと言えます。

戦術を駆使したダンジョンシナリオを遊ぶのであれば、あとで紹介する 2 つのシステムよりもずっと表現力に富んでおり本書で紹介する戦術はひと通り実現できます。個人的には一番のお勧め。ただし、その分ルールの量は多いため、ルールを理解するのが苦手な人は、プレイヤとして慣れてから挑戦する方がいいでしょう。

 

ソード・ワールド 2.0

 http://www.groupsne.co.jp/products/sw/index.html

長らく日本のファンタジー TRPG のスタンダードだった『ソード・ワールド』の名前を冠するシステムです。

文庫で出ているため、書店などで買いやすく、安く手軽に始めることができます。

またサポートも充実していて、追加ルールブック、リプレイ、小説、シナリオ集など、参考になる情報が沢山あります。

 

アリアンロッド 2E

 http://www.fear.co.jp/ari/

こちらも、日本のファンタジー TRPG のスタンダードの地位を築いている TRPG システムで、ソード・ワールド 2.0 と同じく、文庫形態で発売されています。

やはり追加ルールブックやリプレイなどの情報も充実していて、遊ぶための環境が整っています。

『上級ルールブック』を使うとスクエアを使った戦闘ルールも追加され、戦術要素も若干増えます。

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