先の読めないカオスな展開

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TRPG
シナリオ
考察
2018/2/10
カテゴリ
システム

先の展開が読めない、というのは、エンタテイメント、とりわけゲームにおいては重要です。

勝つか負けるか、大勢が決まってしまえばその時点で、ゲームとしての楽しさはほとんど無くなります。

将棋などの情報が完全にオープンになっているゲームでは、先の読めない展開を作り出しているのは対戦相手です。

また多くのカードゲームでは山札のカードや、対戦相手の手札が先の読めない展開を作り出しています。

 

ではTRPGの場合はどうでしょうか?

TRPGにおいて先の読めない展開を提供する最大の要素は、シナリオで用意されている「伏せられた情報」です。

一度遊んだことのあるシナリオが敬遠されるのは、遊んだことのあるシナリオは先の展開が読めてしまうからです。

その他には、判定のダイスの目や、プレイヤたちのひらめき、行動も展開に影響を与えます。なので、プレイヤの行動によって全く展開が変わるように作れば、同じシナリオでも繰り返し遊べるでしょう。ナラティヴと呼ばれるTRPGシステムは、この性質が強いようです。

カオス

その他に先の読めない展開を創り出す方法として、この記事ではカオスについて取り上げてみたいと思います。

カオスという言葉は日常でもたまに耳にしますので、なんとなく意味を知っている方が多いと思います。日本語だと混沌などと訳されますね。ただしここで取り上げる「カオス」は、複雑系の分野で使われる「カオス」です(ただし筆者は全くの門外漢なので、以下の説明は著しく正確性を欠いています)。

カオスの性質を表す有名な例え話に「バタフライエフェクト」があります。ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こす、という話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。初期値のほんの僅かな違い(蝶の羽ばたき)が増幅されて全く違う結末(遠く離れた場所の竜巻)を引き起こすような、予測が困難な現象をカオスと呼びます。ただしカオスは、でたらめな、ランダムな現象ではありません。初期値を正確に揃えれば、100回施行すれば100回同じ結果になります。しかし初期値がわずかでも違えば全く別の結果になり方程式で解くことができないため、現実的には予測が困難なのです。

そうしたカオス現象の一つに、三体問題というのがあります。惑星の軌道の予想から始まった問題ですが、互いに影響を与え合う3つ(以上)の天体の軌道は計算できないというものです。天体は互いに重力によって引っ張り合っているため、その軌道を計算では出せないのです。

前置きが長くなりましたが、これを「先の読めない展開」に応用してみようというのが本記事の試みです。

カオスによる先の読めない展開

話をTRPG的な世界に戻します。

とあるシナリオで、三つ巴の勢力、貴族派、王子派、ギルド派に分かれて争いが繰り広げられているとしましょう。

三体問題でいう3つの天体にあたるのがこの三勢力です。

この3つの勢力は互いに牽制し合っていて、あるときは協力して、またあるときは敵対しています。弱い者同士で組んで強い敵に対抗しようとします。あるいは、一番強い勢力は一番弱い勢力と組んで自分を脅かす可能性のある二番手を蹴落とそうとします。この3つの勢力の抗争は、次のような単純なルールで処理されます。

  • 3つの勢力は、順番に行動する。
  • 各勢力はパワーという数値を持つ。数値の高いほうが強い勢力。
  • 手番の回ってきた勢力が一番高いパワーを持つ場合、一番低いパワーを持つ勢力と組んで二番手のパワーを持つ勢力を攻撃する。
  • 二番手のパワーを持つ勢力および一番低いパワーを持つ勢力の手番では、この二者で組んで一番強い勢力を攻撃する。
  • 手番が回ってきた勢力は、他の二者のパワーが同じ場合、何もせず次の勢力の手番に移る。
  • 攻撃された勢力は、パワーを3点失う。
  • 一つの勢力のパワーが0以下になった時点で一番パワーの高い勢力がこの抗争に勝利する。

ケース1

三勢力の初期のパワーを、ギルド派=10、王子派=15、貴族派=20とし、この順番に行動するとどうなるでしょうか。

  • 第01ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=15、貴族派=17
  • 第02ターン:王子派が、ギルド派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=15、貴族派=14
  • 第03ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=10、王子派=12、貴族派=14
  • 第04ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=12、貴族派=11
  • 第05ターン:王子派が、ギルド派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=12、貴族派=8
  • 第06ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=10、王子派=9、貴族派=8
  • 第07ターン:ギルド派が、貴族派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=10、王子派=6、貴族派=8
  • 第08ターン:王子派が、貴族派と組んでギルド派を攻撃→ギルド派=7、王子派=6、貴族派=8
  • 第09ターン:貴族派が、王子派と組んでギルド派を攻撃→ギルド派=4、王子派=6、貴族派=8
  • 第10ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=4、王子派=6、貴族派=5
  • 第11ターン:王子派が、ギルド派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=4、王子派=6、貴族派=2
  • 第12ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=4、王子派=3、貴族派=2
  • 第13ターン:ギルド派が、貴族派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=4、王子派=0、貴族派=2

結果:ギルド派の勝利

ケース2

貴族派のパワーをひとつ減らしてみましょう。ギルド派=10、王子派=15、貴族派=19とし、この順番に行動するとどうなるでしょうか。

  • 第01ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=15、貴族派=16
  • 第02ターン:王子派が、ギルド派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=15、貴族派=13
  • 第03ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=10、王子派=12、貴族派=13
  • 第04ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=12、貴族派=10
  • 第05ターン:王子派は何もせず→ギルド派=10、王子派=12、貴族派=10
  • 第06ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=10、王子派=9、貴族派=10
  • 第07ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=9、貴族派=7
  • 第08ターン:王子派が、貴族派と組んでギルド派を攻撃→ギルド派=7、王子派=9、貴族派=7
  • 第09ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=7、王子派=6、貴族派=7
  • 第10ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=7、王子派=6、貴族派=4
  • 第11ターン:王子派が、貴族派と組んでギルド派を攻撃→ギルド派=4、王子派=6、貴族派=4
  • 第12ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=4、王子派=3、貴族派=4
  • 第13ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=4、王子派=3、貴族派=1
  • 第14ターン:王子派が、貴族派と組んでギルド派を攻撃→ギルド派=1、王子派=3、貴族派=1
  • 第15ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=1、王子派=0、貴族派=1

結果:ギルド派と貴族派の引き分け

ケース3

パワーは最初の例と同じにし、王子派から行動させてみましょう。

  • 第01ターン:王子派が、ギルド派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=15、貴族派=17
  • 第02ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=10、王子派=12、貴族派=17
  • 第03ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=12、貴族派=14
  • 第04ターン:王子派が、ギルド派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=12、貴族派=11
  • 第05ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=10、王子派=9、貴族派=11
  • 第06ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=10、王子派=9、貴族派=8
  • 第07ターン:王子派が、貴族派と組んでギルド派を攻撃→ギルド派=7、王子派=6、貴族派=8
  • 第08ターン:貴族派が、王子派と組んでギルド派を攻撃→ギルド派=4、王子派=6、貴族派=8
  • 第09ターン:ギルド派が、王子派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=4、王子派=6、貴族派=5
  • 第10ターン:王子派が、ギルド派と組んで貴族派を攻撃→ギルド派=4、王子派=6、貴族派=2
  • 第11ターン:貴族派が、ギルド派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=4、王子派=3、貴族派=2
  • 第12ターン:ギルド派が、貴族派と組んで王子派を攻撃→ギルド派=4、王子派=0、貴族派=2

結果:ギルド派の勝利

 

いちおう機能しているようです。初期値のパワーが一つ違うだけでも、行動の順番を変えるだけでも、経過は全く変わってきていますね(ただしケース1とケース3とで途中収束していて結果は同じになっています)。

1ターンずつ書き出してみれば結果は解りますが、初期値からどのような結果になるかを計算するのはなかなか困難ではないでしょうか。

同じシナリオでも初期値をちょっと変えるだけで全く違う展開を見せる(ので繰り返し遊べる)というメカニズムとして使えないかなと考えています。今のところアイディアはここまで止まりで、シナリオに組み込むにはもう一つ工夫が必要になってきます。例えば、PCの頑張りによってパワーの減りが軽減されるとか、相手のパワーを沢山削れるとか、敵同士組むのを阻止するとか。あとは終了の条件をパワー0以下になったらではなくターン数で切るとか1d6を振って1が出たときにするとか……。

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